院長のご挨拶 患者さまそしてご家族みみなさまへ 財団法人十愛会十愛病院・病院長・常務理事 野崎秀次
開院40周年を過ぎて
平成22年度の当会の事業が、ほぼ終わりの時期を迎えようとしていた3月11日、今回の激甚災害をこの国は体験することとなりました。まずは、今なお、多くの課題、余波が続く中、被災にあわれ、また今なお、様々な形での心労に苦しまれておられる多くの方々に、謹んで哀悼の意を捧げ、お見舞いを申し述べさせていただきます。
また、ある意味、私たちの世代では初めての体験となる、原子力被害への対応などは、この国の現在進行形の深刻な課題となっています。意識し、日々の業務と並行して、真剣に、考えていかなければならない状況と考えております。
歴史に振り返って学ぶことが困難な事象が数多くある―想定外であった―と、多くの分野で言われています。確かに震災後、当会が事業の柱としている、発達障碍児・者への福祉医療という分野での支援の在り方というものについては、まず肝心である実情がなかなか、把握できませんでした。断片的ではありますが、発達障碍が故の避難所にいることが困難などという厳しい情報、助け合って、グループを作って避難所生活をおくられている方たちの話、などが伝わってまいりました。後述しますように、当会の事業は40年を超えますが、ここにきて"災害時の障碍児・者支援の在り方"といった、課題を与えられているという意識をもっております。
今現在は、かつてないほど、公的にも私的にも様々なルートから、医師としての活動要請、また法人へは医療スタッフや福祉援助職員の活動など、急性期のお手伝いについて考え、判断するべきことは多岐にわたります。一方、今回の課題は、急性期だけにどうすればということだけではなく、この先この国がどの分野も、年余にわたって、それぞれの事業体が、それぞれが持つ特性を生かしつつの対応が重要となることは、誰の目にも明らかです。
先に与えられた新しい課題として"災害時の"と申し述べましたが、加えてこの国のこれからの復興の過程で、公益法人として果たすべき役割、すなわち具体的には、甚大被災地における障碍者医療環境への関わり方(連絡体制・方法論の検討)、広域な地域からの、小規模である当会が可能な、医療部分の受け入れの在り方などに際して何が重要な課題となるか等、今後多くの方から、ご意見などを頂戴し、特に意識して考え続けたいと思っております。
当会の福祉医療事業は、42年を過ぎようとしています。小生が3代目の病院長・相談所長として就任してからも、早いもので、もうすぐ20年が経つところまでまいりました。
初代院長が開設にあたって考えた"地域で療育困難な知的障碍児・者への主に精神科的合併症の治療を含めた、時間をかけた医療・療育対応を"というコンセプトは、時代の変遷とその対応を意識しつつも、根底は何ら揺らぐことなく、日々意識して皆とともに活動しております。基本は、医療の進歩を意識し獲得すべき努力をしつつ"病気を診ずして病む人を診る、支える"という小生の学祖の言葉がいつの日も基軸にあって、皆とその姿勢でいるように努力しています。
病院・相談所の運営は、ここ数年、さらに加速度化している医療の変容、厚生行政の変容にあたっても、ぶれることの無い様に、様々な職種とともに努力してきております。
入院部門・外来部門・市の知的障碍者への2次療育相談機関としての活動は、当院の基本活動でありますが、いつも職員一同に伝えているのは、職種に関係なく、患者さんに接するすべてのスタッフが、福祉医療機関総体の顔になるという意識で活動してほしいということであります。 活動にあたっては"人を診る・支える"ための良質な医療の提供が大前提であり、各職種、各自の研鑽の機会などに積極的に参加できるような病院づくりに心掛けております。あわせて、院内研修の充実、および、医療安全や院内感染、精神病院ならではの付随する各種委員会の在り方は、小病院であろうとも重要な位置づけと意識して、真剣に取り組みつつの日々でありますことを記しておきます。
ここ数年苦しんだインフルエンザ対策も、職員とともに考えた対応マニュアルによって、2年間の入院患者内での発生数をわずかに抑えられたことは、病院運営においての職員一同の努力の成果と考えております。しかしこのことは、終局がある課題ではなく、引き続き緊張を持っております。継続した環境整備には、関係各福祉資源に多大なご協力を頂いておりますことに、この場を借りて御礼を申し上げます。
さて、今年度は、医局においては半年間、常勤医師1名不在という状況があり、これに対しては2名の非常勤医師にて対応してまいりました。また、これは一時的なことですが、常勤の臨床心理士の一時休職もあって、3名の非常勤の臨床心理士によって対応させていただいた1年でもありました。外来の初診希望の患者さまはじめ、多くの方にご迷惑をおかけしました。
幸い新年度は、臨床心理士の復帰、副院長の新年度4月からの就任、若干の交代はありますが、小生が病院長を続けさせていただき、副院長の就任を含め、常勤医師3名が確定いたしております。非常勤医師も、精神科医については、ひきつづき3名の医師の勤務があって、総勢6名の医局体制を基軸としてスタートしております。診療体制の在り方については、調整がしばらく必要ですが、どうか患者さまなど、各位におかれましては、この間の状況につきましてご理解を賜りたいと思います。
さて、入院部門においては、機能分化した2病棟制(精神科閉鎖病棟である急性期治療病棟および開放病棟である療養病棟)となって、時が経ちました。前者においては、主にここ数年の横浜地域における福祉資源の充実が図られる中、なお人口急増の速度には、到底追いつかないことなどを背景とし、さらに入院を要する方の種々の課題が、年々高度なものになってきているという難しさがあるなかでの運営を意識する中であります。後者は、知的障碍者も健常者等しく、高齢化という課題を考える時代、すなわち合併身体疾患の複雑化といった問題を考えながらの日々の運営であります。今年は、医療安全部門を意識的に強化して設けつつ、看護部体制・援助職員体制の強化を行いました。そのなかで、各職員、それぞれが、すこしでも自己意識を持ちつつ活動してきていることで、この病院の専門性をよりステップアップすることにつながる足がかりを掴みつつあると感じています。今年度は、さらなるソフト、ハード両面でのアメニティーの充実を図りつつ、対応していきたいと考えております。短時間での急な達成は難しいことかもしれませんが、これまでの努力を検証しつつ、継続し、日々の歩みの中において、精神病院であるがゆえの特性に応じた安心できる病棟づくりを目指していきたいと考えております。
また外来診療については、非常に多数の施設の嘱託業務と合わせてのものであり、かなりタフな部門になっております。しかしながら、この部分の充実なくしては、将来のさらなる広く公益に値する活動が成り立たないとともに、閉じた精神病院であってはならないというかねてよりの小生の理念により、なおいっそうの質の充実を図っていきたいと考えております。
こうしたなか、入院も含めてですがここ数年、語ってきたことではありますが、当院を利用される方々にご理解いただきたいことを3点述べたいと思います。
ひとつは、当院の基本は、救急部門などは持たない精神科単科医療機関であり、すなわち入院病床は、精神科専門治療、障碍サポートを含む療養のための病床として許可された病床であることです。他の医療機関の受診困難などといったことなどを理由に、いささか単独の精神科病棟の機能を超えるようなご依頼があることです。今日、大学病院などの精神科医療を含む、総合医療機関では論議されることと思いますが、単科精神医療機関本来の能力・果たすべき役割とは、異なると同時に、守備範囲を超えることを何卒ご理解頂きたく存じます。
私たちも日頃、自身の適切な守備範囲を意識しています。通常の外来診療時においても、こうした身体疾患に対して、きちんとした、それぞれの専門身体科の診療を受けることなく、ご依頼に対して、安易に答えてしまうことは、最小限にしなければならないと考えております。
本来、専門性のしっかりした医療機関を受診すべき障碍をお持ちの方たちの、適切な診療機会に対して一見、便利に感じられても、日々各科の診療が進歩する中、大変失礼なことになると考えています。こうした事象への医療の在り方は、広くこの国の課題であると思います。
つぎには、当院は先に述べたことではありますが、いまなお、日本型医療制度の中では多くの進歩がある中なのに、こと精神科医療という限られた立ち位置から見ても、知的障碍の4文字が患者さんの前段にあった時、小児科年齢の早期療育は別としても、青年期以後、成人年齢での精神科合併症を併せ持った時に、種々な精神医療を受ける際に様々な困難を伴うという現実があります。
このことはある意味、当院が課せられている公的役割であることは認識しています。現実には、新患の方達への診療体制などは、次の3つめに述べる実情と同時に、どうしたら継続的でスムースな受け入れが可能な体制づくりをするのかを、改めて考えているところです。現実には、非常に長い予約待ち時間が発生している状況を解決していかなければなりません。どうか、いましばらく、お時間を頂きたいと思います。
3点目は、当院は、いわゆる社会福祉資源と異なって、対応する方に対して定員というものがありません(病棟の定床数は当然ありますが)。医療機関故、当然ではあります。ただ、当院を利用となっている方達の状況からご理解いただけると思いますが、一度関わりが始まると、半永久的になるのがこれまでの現実であり、ある意味トータルライフサポートの重要性を意識してきた結果であると考えております。しかしながら、今後、長い展望に立った時には"投薬などの医療対応を含めた卒業生を出していく"、あるいは"地域の機関との適切な連携を掘り下げて模索していく"ことを検討していかないと、病院総体として、現状も、実情はそれに近いものがありますが、いわゆる加重状況になってしまいます。結果は、個別の方へのサービスの質が低下していきます。こうした問題については、時間はかかりますが、種々の工夫を検討していかなければなりません。引き続き公益に、継続的な福祉医療活動が可能な事業体たるための必然的な課題と考えております。どうぞ各位の皆様のご理解、ご協力をお願いしたいと思います。
2008年発達障害研究国際会議にて(南アフリカ:ケープタウン)
最初に述べましたように、大きな災害を体験している中にあって多くの分野の方が"日本は一つ、伴にあれば乗り越えられないものはない"と叫ばれて、この国がどの方向に向かっていくのか皆が考えなければならない時代です。偶然ではありますが、本年度は非常に重要なことして、当院も国の法人改革に対応して、今年度から新年度にかけて"公益財団法人"への移行作業が実行段階に入っています。これまで自負してきた"公益性"に自信を持つなかでの作業ですが、重要な転機になりますことを報告いたします。
そんな中、少し個人的な想いが入りますが、今回は大きな規模で事象が起きた故、国としてという状況になっていますが、冷静になり、個々の方の人生に立ち返って考えた時に、例えば、障碍のお持ちの方は幼少時、そのことを告知されて、これまで生きてこられている歴史。また障碍云々ではなく、個々の方の内面に入れば、ある人は早くに親を亡くし苦学した方、一時期触法に至ってしまった方の社会復帰など、社会の表面にでることはなく、特別な補償を受けることなく、人生を切り開いて、それぞれがやっと、今の年齢に達したという思いをお持ちの方も多いのではないかと思います。どのような状況であれ、隔てなく、純粋な心情が生かされることを、我々医療はそっと側面から支えること、それこそ"公益性"と考えます。
個人の価値観の中での喪失感とそこからの復活というのは、人という生物には、もともと備わっていると信じたいと思っています。悲しみ・辛さ・楽しさ・喜び、人はそれを共有することが大切な一方で、個別の中で、人知れず乗り越えてきた歴史があるように思います。今回もこのような中、"日本人らしい"個々の強さが発揮されていくことを願ってやみません。
最後になりますが、当院が今日を迎えられていることは、日々、これまで等しく、長年支えていただいている横浜市、川崎市、神奈川県を中心とした行政各局からの様々な御支援・ご支持なくして、当院の活動はありえません。心より感謝申し上げ、大変、長くなりましたが、病院長の御挨拶とさせていただきます。
平成23年4月28日 病院長 野崎 秀次
病院長略歴
- 昭和52年03月
- 聖光学院高等学校卒業
- 昭和59年03月
- 東京慈恵会医科大学卒業
- 昭和59年05月
- 東京慈恵会医科大学付属病院長直属小児科配属研修医
- 昭和61年04月
- 同上 終了
- 昭和61年04月
- 東京慈恵会医科大学小児科科学教室 医員
- 埼玉県立小児医療センター神経科 医員
- 平成元年07月
- 東京慈恵会医科大学小児科学教室 助手
- 同付属病院柏病院勤務(病棟医長・小児神経専門外来担当)
- 平成元年10月
- 同付属病院新橋校勤務(病棟医長・小児科神経専門外来担当柏病院小児神経専門外来兼任)
- 平成04年04月
- 財団法人十愛会十愛病院 医局長
- 平成04年06月
- 東京慈恵会医科大学小児科学教室 無給医員
- 財団法人十愛会十愛病院病院長
- (同相談室長・同常務理事)就任
- 現在に至る
資格
- 医学博士
- 精神保健指定医
- 横浜市肢体不自由判定指定医
所属学会
- 日本精神神経科学会
- 関東小児腎臓研究学会
- 日本小児科学会
- 日本小児神経学会
- 関東小児神経研究会
- 日本発達障害学会
- 神奈川小児神経懇話会
- 日本神経病理学会
- 日本育療学会
嘱託医
- 社会福祉法人同愛会 てらん広場
- 社会福祉法人和枝福祉会 愛
- 横浜市知的障害者北部就労援助センター
- 横浜市更生相談所
- 社会福祉法人試行会 青葉メゾン
- 社会福祉法人くるみの会 ひかりの園
役員
- 財団法人十愛会(十愛病院)常務理事
- 社会福祉法人十愛療育会(横浜療育医療センター)理事
- 社会福祉法人試行会理事
- 社会福祉法人くるみ会評議員
- 日本発達障害学会理事
- 発達障害者介護認定区分審査会委員